21世紀COE・次世代ユビキタス情報社会基盤の形成
第二回 ユビキタス場所情報システム・シンポジウム

日時
平成16年11月16日(火)14:00~17:00
会場
東京大学大講堂(安田講堂)
主催
東京大学大学院情報学環・学際情報学府学際情報学専攻
国土交通省

プログラム

13:30~
受付
14:00~14:10
挨拶
林  良博(東京大学 理事(副学長))
佐藤 信秋(国土交通省 技監)
14:10~14:55
基調講演「ユビキタス場所情報システムの可能性」
坂村 健(拠点リーダー、大学院情報学環副学環長・教授)
14:55~15:10
報告「神戸自律的移動支援プロジェクト」
藤本 貴也(国土交通省近畿地方整備局 局長)
15:10~15:15
休憩
15:15~16:50
パネルセッション「ユビキタス国土実現のために」
パネリスト
大石 久和(財団法人 国土技術研究センター 理事長)
川嶋 弘尚(慶応義塾大学理工学部 教授)
坂村  健(拠点リーダー、大学院情報学環 副学環長・教授)
16:50~17:00
閉会挨拶
上野  宏(国土交通省政策統括官)

ごあいさつ

東京大学大学院情報学環・学際情報学府学際情報学専攻は「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」との研究テーマで、文部科学省「21世紀COEプログラム」の平成16年度採択拠点となりました。

21世紀の人間社会は、あらゆる場面においてデジタル化された情報を活用する「ユビキタス情報社会」へと向かおうとしています。ユビキタス情報社会の基盤を形成するためには、情報学を核とした技術はもちろんのこと社会、経済にわたる幅広い学際的学問基盤が必要であり、本拠点はその確立を目的としています。

1984年より、私はユビキタスコンピューティングやユビキタスネットワークの研究を「TRONプロジェクト」という名前で、東京大学を中心に産学協同体制で進めてまいりました。このプロジェクトの基本コンセプトである「どこでもコンピュータ」という概念は、最近では世界的に大きな影響を与え、我が国でも政府のIT政策の中核の一つ、u-Japan(Ubiquitous Japan)、として採り入れられようにもなっています。このような背景を生かし、本プログラムの5年間で、ユビキタス分野における世界の研究教育を先導できる世界最高水準の研究拠点を形成すべく、東京大学大学院情報学環を挙げてユビキタス情報社会の挑戦に取り組んでまいります。

本シンポジウムは21世紀COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」シンポジュウムの第二回として、国土交通省と共同で進めている「自律的移動支援プロジェクト」をテーマとして、社会規模の巨大な情報基盤を構築するときに考えられるさまざまな課題について議論を深めたいと考えています。

2004年11月
坂村 健
21世紀COEプログラム
「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」拠点リーダー
東京大学大学院情報学環・副学環長・教授


基調講演
「ユビキタス場所情報システムの可能性」

坂村 健
拠点リーダー
東京大学大学院情報学環・副学環長・教授

概要

ユビキタス・コンピューティングの基本的な考えとして、コンテクスト・アウェアネス――状況認識というのがあります。いままでの多くのコンピュータ応用のモデルではコンピュータ内部にデータとして存在するバーチャルな空間とコンピュータ外の現実の空間は遊離しており、現実の空間との対応は人間が入力することで行うしかありませんでした。ユビキタス・コンピューティングで言うコンテクスト・アウェアネスとは、多くのコンピュータを現実空間中に配置し、それらがセンサーや電子タグの読取装置といったものを駆使することで、現実空間の状況を自動的に把握し、それにより人間に入力の負担をかけずに、最適な処理を行うというコンセプトです。

この状況認識は大きく分けると、人の認識、モノの認識、場所の認識とありますが、今回はその中でも場所の認識に焦点を当て、その具体的実例として国交省と進めている「自律的移動支援プロジェクト」をベースに、議論を深めたいと考えています。

原理的に言えば、実空間に対するコミットを最重要課題とするユビキタス・コンピューティングにとって、時間と場所の把握は、人やモノの状況を解釈するときのコンテクストとして最も基本的なものです。たとえば、店に置かれているときは商品であるものが、家庭に置かれれば消費財になり、道路にあればゴミであるといったように、そのモノが「社会にとってどういうものであるか」といったことも場所のコンテクストがなければ解釈できません。

具体的には、場所の認識基盤には、自律的移動支援プロジェクトが直接の目的としている障害者の情報面からの移動支援というだけでなく、観光振興、広告、マルチモード物流の支援、トレーサビリティ・ログにおける場所の記録、場所をベースにした情報セキュリティなど、場所に関係する多様な応用の基盤としての可能性があります。さらに、道路をはじめとする各種社会的ライフラインの管理も重要な応用として考えられます。

日常的な応用の基盤としての重要性だけでなく、災害時などの非常時においても大きな可能性が考えられます。災害時において「状況の把握」は重要な課題でありながら、多くの場合、瞬時の対応の必要から状況把握のため作業は行われず、結果的に後になって多くの問題が発生する結果になっています。その意味で、現場に可能な限り負担をかけず、自動的に状況が把握され、なおかつそれがデジタル情報としてネットワーク集約できる――というユビキタス・コンピューティングによる情報基盤は、初動から避難民支援まで、災害対応に大きな威力を発揮する可能性があります。たとえば道路に組み込まれたセンサー装備のアクティブRFIDの反応を知ることで、道路が寸断されている状況の初期把握をすばやく行えるといったことが考えられます。

このように将来のユビキタス社会における重要な社会基盤であり、多くの可能性が考えられる場所の把握ですが、応用に応じてさまざまな技術の組み合わせが必要であり、またその場での設置に関してもコスト的にも権利的にもまた責任の面からも、関係者が多く非常に複雑な問題が考えられます。多くの場所で、多くの主体により現実的に実施されることを考えると、理想論的モデルが成り立たないことも確実であり、学術ベースでない現実的な対応が重要です。技術的な問題と同程度というより、それ以上に制度的な問題が重いという意味でも、場所の状況把握基盤は、まさに今回のCOEに適した主題といえるでしょう。その可能性とともに、実現にあたりどのような課題があるか――本日の議論が、その参考になることを希望しています。


パネルセッション
「ユビキタス国土実現のために」

パネリスト: 大石 久和

(財)国土技術研究センター理事長

京都大学大学院を卒業後、建設省に入省。地方建設局、国土庁の役職を歴任し、平成11年7月に道路局長、平成14年7月に国土交通省技監となる。誰もが持てる力を発揮して社会参画できる「ユニバーサル社会」構築の必要性と、国が先導的に取り組むべき仕事という認識のもと、「 自律的移動支援プロジェクト」を発足。省内および省外との調整に尽力し、プロジェクト推進の基礎を築く。本年6月に勇退し、8月に現職に就任。早稲田大学客員教授として「国土経営・国土学」の教鞭も執る。

概要

世界に類をみないスピードで少子高齢化が進む中、我が国の活力を維持するためには誰もが持てる力を発揮して世の中に参画できる社会の構築が不可欠であり、既存のインフラをITで結びつけ、世の中をもっと動きやすく、使いやすくするための新たなインフラ整備が必要との考えから本プロジェクトは開始された。プロジェクトでは利用者の使い勝手を考えたハードの整備が不可欠であり、必要な技術や制度を官民が協働して育てなければならない。

現在、多くの民間企業や団体、自治体の協力のもと神戸でのプレ実験を開始するなど着実な進捗をみているところであるが、プロジェクト推進にはさらに多くの方々の認識と理解が必要である。そこで、改めて本プロジェクトの目的や官民の役割、また、移動支援だけにとどまらない様々な活用の可能性、日本発世界標準に向けた取組みなど、今後の展開について論じることとしたい。

パネリスト: 川嶋 弘尚

慶応義塾大学理工学部 教授

ITS(Intelligent Transport Systems)に関する研究開発を行っている。特にITSを導入することによってドライバーに対する負担がどのように変わるかという問題、あるいは環境への負荷がどのように変わるかというような諸課題について、これらを捉える概念モデル、測定方法、評価方法について研究している。

概要

社会システムとしてのITSを実現させるためには各種の標準が必要であるが、ナビゲーション・システムのように世界商品となりうるものや、今後ITSを低開発国で活用するためには国際標準が必要となる。現在ISO/TC204の日本代表としてこの方面の活動に従事している。

ITSは路側と車、車と車、車とドライバーの関係をとりあげていたが、歩行者と車の関係はとりあげられていなかった。ユビキタス技術環境が整備される状況と、道路交通安全に対する世界的な関心の高まりの中で、歩行者と車に関する新しいユビキタスITSを日本から発信できればと考えている。


自立的移動支援プロジェクト

コンセプトは「場所に情報をくくりつける」

「個人として移動することに何らかの困難を覚える状況」に対し、IT技術により情報面からサポートし、自立的な移動を助けようというのが、自立的移動支援プロジェクトです。移動の自由を手に入れることにより、すべての人が持てる力を発揮して、支え合って構築する「ユニバーサル社会」の実現を目指します。

その実現にあたっては「ユニバーサル・デザイン」の考え方に立ち「特定の人たちのためだけの特殊な設備」とは捉えず、広く多様な人に役に立つ汎用技術基盤として確立することを目指しています。

基本コンセプトは「場所に情報をくくりつける」ということです。その場所毎において、多様な人、多様な状況に応じた最適の情報提供が自動的に行われます。

この考え方により、さまざまな障害を持った方、高齢者、子供、外国の方、旅行者を含めたすべての人について、移動を助けるだけでなく、様々な新しいサービスを提供できるようになります。

自立的移動支援プロジェクトシステム概要

ユビキタスIDセンターのメカニズムを「場所」の識別に利用

プレ実証実験開会式では、ユビキタス「場所」情報システムのデモンストレーションを行います。

ユビキタス「場所」情報システムでは「場所」に固有の識別番号を与えます。この「場所」の識別番号にはユビキタスIDセンターの提案する「ucode」を使います。「場所」に与えられたucodeから、ユビキタスIDセンターのアドレス解決サーバを使うことにより、ネットワーク上のデータベースより様々な情報・サービスを呼び出せるシステムを目指しています。

情報をくくりつけられた「場所」に、標準通信端末ユビキタス・コミュニケータ(以下、UC)を持って行くと、RFIDや赤外線、無線LAN、 Bluetoothなどの多様な方式を使い、それぞれの場所・サービスに適した方法でucodeを取得できます。

取得されたucodeとUCの知る「コンテクスト(状況)」情報をあわせて、ネットワークに送ると、「その時その場のコンテクスト」に最適な情報・サービスがUCに提供されます。たとえば、同じucodeでも目も不自由な人、耳の不自由な人などその人に適したサービスが呼び出されます。

ユビキタス時代の汎用端末“ユビキタスコミュニケータ”

ユビキタスコミュニケータは、ユビキタス・ネットワーキング環境における携帯型の汎用コミュニケーション端末です。

本プロジェクトでは、自律的移動のための様々な技術が用いられます。しかし、人間が利用する端末が技術ごとに異なっていては使いにくい--そこで本プロジェクトでは、利用者はユビキタスコミュニケータだけで、全てのサービスが利用できることを目指します。

なおユビキタスコミュニケータは、OSのソースコードまで公開されたオープンなプラットフォームであるT-Engineのアーキテクチャに基づき開発されました。

概略仕様
CPU 32bitチップ
ディスプレイ VGA(480×640ピクセル)
内蔵通信機能 無線LAN、Bluetooth
非接触I/F 13.56MHz & 2.45GHz デュアルアンテナ内蔵
カードI/F SD ×1、miniSD ×1、SIM(eTRON)×1
カメラ 30万ピクセル×1、200万ピクセル×1
赤外線I/F 入力×1、出力×1
生体認証 指紋認証ユニット×1
音声 ステレオスピーカ、マイク入力、ヘッドフォン出力
専用ASIC 動画&静止画アクセラレータ、ビデオキャプチャ、等
外部I/F クレドル接続コネクタ(シリアルI/F、USB、他)

オープンシステムとしての実現

ユビキタス「場所」情報システムは、オープンな情報基盤として提供されます。

ユビキタスIDセンターは、その場所のucodeに対応した情報・サービスへユビキタス・コミュニケータ(以下、UC)をつなぐだけです。情報・サービス自体を保持・管理することは考えていません。また場所ucodeも基本的には誰でも空間に定義できる機器を設置して、それを割り当てられることが できます。

このようなオープンな情報基盤であることにより、その上にさまざまなサービスが載り、またNPOや個人、利用者自身など多くの人達がコンテンツを累積していけるようになることを期待しています。


東京大学大学院情報学環・学際情報学府学際情報学専攻
21世紀COE・次世代ユビキタス情報社会基盤の形成
第二回 ユビキタス場所情報システム・シンポジウム
発行 2004年11月16日

Copyright © 2004 by
Interfaculty Initiative in Information Studies
Graduate School of Interdisciplinary Information Studies
The University of Tokyo

 

 

 

 

 
 
 
 
           
 
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